スパニッシュマスチフとは

基本情報

原産国:スペイン

標準的な外見と性格

どっしりとした形の良い体つきで、力強く骨太な犬です。
特に頭の骨が大きいです。骨格は無駄のない作りになっています。
通常は愛くるしく、優しさがあり、マイペースな性格の犬種です。
いざ敵に出くわした時だけ防衛本能が発揮されます。

鳴き声は力強く低音で太く、けたたましく鳴きません。

体高(キ甲までの高さ)については最長の長さは確認されていませんが
好まれる長さとして体つきと程良くバランスのとれた長さと言われています。

オス:77㎝(31インチ)

メス:72㎝(29インチ)

★かなり大きなサイズの場合で

オス:80㎝(32インチ)以上

メス:75㎝(30インチ)以上

身体の構成は、体高よりも胸の深さや幅が大切です。四肢が太く、マズルも太い方がよいです。
均整の取れた身体で、落ち着いた雰囲気の動きがとても好ましいです。
太らせて体重が重たくなるのは好ましくありません。
ウェストのくびれがあり、背骨が触れるようにしなければなりません。
スペインでも以前はこのようなスパニッシュマスチフがドッグショーに出ていましたが、今は太らせた子がドッグショーに出てくるようになりました。

元来スパニッシュマスチフは家畜の保護犬としてブリーディングされてきました。
かつてスパニッシュマスチフは季節毎に移住する民族と生活しており、特に成犬の頃からは羊達と共に行動し 狼などの肉食動物から家畜を守ったり移住先で人々を守る番犬でした。
犬の急所である首には皮がたくさんあり、オオカミなどの害獣に襲われても首のダメージが少ないです。
ですから、スパニッシュマスチフには攻撃性がありません。防御力に優れた犬種です。

今日でもスパニッシュマスチフはたいへん稀少犬種です。
スパニッシュマスチフの祖先が持つ素晴らしい特性をしっかりと受け継ぎ、コンパニオンアニマルとして飼育されています。

頭部は大きく、強く、幅広い形をしています。頭蓋と鼻梁の比率は6:4程度です。
頭部全体はやや高い位置にあり、真上から見ると正四角形です。

頭蓋骨の幅は縦の長さよりも広く出ており、後頭部が目立っています。
概してオスの方が骨太で頭蓋骨は広くて大きくて頭頂部が平らです。

ストップ(段額)はゆるやかな角度で自然なラインを描いています。
もともとポメラニアンのようにストップのきいた犬種ではありませんが、ダックスフントほどなだらかでもありません。

唇は、上唇が下唇を十分に覆っています。唾液(よだれ)はほとんど垂れません(リップダウンしていません)。
唇の合わせ部分は黒くなっています。

歯が身体の割りに小さい理由は攻撃性が非常に少ないからであるといわれています。

目は身体の割りに小さいです。位置は頭蓋骨の辺りになります。
スパニッシュマスチフは概ねスペイン人のように垂れ目であるとスペイン人はいいます。

首は独特の形をしており、十分に発達した喉袋のような皮がついています。
これこそがスパニッシュマスチフの一番の外見的特長です。
この首の豊かな皮が、かつては外敵から身を守るための”防護”の役割を果たしてきました。

スパニッシュマスチフを横から見ると長方形で力強く大変逞しく、大型動物のようなゆったりとした動作をします。
まるでライオンのような歩様です。

キ甲(肩の骨)は十分に発達しています。歩くとキ甲の動きが見えることが大切です。
腰には腰のくびれがあるべきです。このくびれがなければ肥満か肥満気味ということです。

お尻は幅広で力強いお尻です。トップラインから地面に向けて約50°のなめらかなラインが描かれています。
お尻の高さはキ甲の高さと同じとされていますが、お尻の方が高くても問題ありません。

トップライン(背線)はまっすぐに伸びています。動いている時ですら水平なラインを保つことが理想とされています。
ただし、皮が多くて柔らかいため早く歩いたり、走ったときに背や腰が左右に揺れやすいです。
もともと運動能力を追求して作られた犬種ではないため、スマートに歩いたり走ったりしません。

胸部は幅広で深みがあり、筋肉質で力強いです。胸肉も十分に付いています。
肋骨部分が大きいことは豊かな内臓を有するため、理想的とされています。

腹部と脇腹には適度な量の皮が付いており、重みがあって幅広で柔らかいです。
スペインのドッグショーではスパニッシュマスチフの背中や脇腹の皮の量を審査します。
豊かな皮を持つスパニッシュマスチフほどよいとされているからですが、太らせて皮を多くするブリーダーが増えたため、近年ではこの傾向が問題視されています。

尻尾は太くて大きく垂れ下がっています。
足首の関節くらいまでの長さです。
興奮している時や走っている時は、先がクルリとカーブしたまるでフェンシングの剣の様な形でしっかりと立ち上がっています。

パッド(足裏の肉球)は身体の割りにやや小さく、強い指が長くてきれいなアーチ型になっています。
爪とパッドは堅くてたくましいです。
スパニッシュマスチフは体重が重たいので、日頃爪を切らなくてもよいです。
ただし、相対的にスパニッシュマスチフはあまり早く走りませんし、運動もしませんが、パッドの辺りの毛を切ることはありません。

パッドは楕円形をした猫足の様です。蹴爪(狼爪)は一つ又は二つあります。
蹴爪が2つもあることがあるのは古代犬の証でもあり、超大型犬の証でもあります。
また、この蹴爪を取り去る行為は現代では好ましいことではありません。

皮膚には弾力性があり分厚くて、黒みがかった色素と共に血色のよい色です。
ダークスキンとは黒みがかった皮膚のことですが、必ずしもそうでなければいけないわけではありません。
また皮膚の色素と健康とは関係ありません。
肘や尻や膝などに寝ダコができることはあまりありません。

被毛は多くて芯があり、サラリとした毛が体中(指の間にまで)を覆っています。
背中を覆う毛と肋骨・脇腹を覆う毛は種類が違います。
足の毛は短く 尻尾の毛は長くてわずかに艶があることもあります。
硬めの被毛で、短めであるため、毛玉になることはありません。

スパニッシュマスチフの毛色については全ての色が認められています。
ソリッドカラー(一色の毛色)では、イエロー、フォーン(子鹿色)、レッド、ブラックなどがいます。
また、混合色では、ぶち、まだら、胸部だけ色違い、といったものがいます。

ルーツ(歴史)

原産国スペインでは古代より幾世紀にもわたり牧羊犬として活躍しオオカミ等から守る護衛犬として飼育されてきました。
太古の壁画にも描かれているほど歴史ある犬種で「古代犬」といわれています。
スパニッシュマスチフは最初にどこの誰が作出したのか分かっていませんが、少なくとも新石器時代にはすでに中央ヨーロッパに存在していました。
また、バビロンの遺跡やアッシリアの彫刻にも登場しています。

スペインの画家ベラスケス(1599-1660年)の「ラス・メニーナス」(プラド美術館所蔵)に登場する犬がスパニッシュマスチフですが、今のスパニッシュマスチフとは大きく違うところがたくさんあります。

他の多くの犬種と同じく第二次大戦により個体数が激減ましたが、かろうじて残ったわずかな血統から徐々に個体数が増えていきました。

世界でも数少ない貴重な犬種ですがヨーロッパではその堂々たる風貌や従順で温厚な性格からコンパニオンアニマルとして一般家庭で飼われています。

現在ではスペインの国犬となっていますが、原産国のスペイン国内で全犬の飼育頭数の3%未満しか存在しませんので、街中を歩いていても見かけることがありません。
秋田犬や紀州犬が天然記念物に指定されて、国により保存に取り組まれているようにスペインではスパニッシュマスチフ協会が設立されて一層、育種向上と犬種保存に積極的になりました。

日本では1998年に井上正樹がスペインのブリーダーから直接スパニッシュマスチフのオス「ゴードン」とメスの「ギルヴィー」を輸入し、ゴードンがJKCで国内第一号の血統登録がなされました。

日本の愛犬家から伝え聞いた話によりその存在を知り、スペインから輸入したのが「ゴードン」です。

1999年にこの2頭を交配して誕生したのが、国内産第一号のスパニッシュマスチフとなりました。
ギルヴィーはこのとき14頭もの赤ちゃんを出産しました。

ギルヴィーが出産できなくなる年齢に達してから、改めてスペインのブリーダーを探しました。
ゴードンとギルヴィーの輸入時にはスペインを訪問しませんでしたが、2頭と暮らして赤ちゃんを育てて、更にもっとスパニッシュマスチフを知りたくなりましたし、知る必要が出てきました。
そのためにはスペインがどんな気候風土で、どんな国民性で、犬に対してどのような関わり方をしているのか、そしてスパニッシュマスチフをブリーディングしているブリーダーがどのような方法で飼育したり、ブリーディングの仕方をしているのかを知る必要があるとの思いでスペインを訪問しました。

ラ・リオハのアゴンフィロとバレンシアとマドリッドの西隣の古い城下町アビラの3都市3軒のブリーダーを訪問しました。

ゴードンより年上のギルヴィーが亡くなる直前の2001年にスペインから2頭目のスパニッシュマスチフのメス「アビラ」を輸入し、1年に1回、合計3度の出産をしました。

そしてゴードンが亡くなり、アビラが出産できなくなり、スペインやイタリアなどのブリーダーから新たなスパニッシュマスチフの輸入を試みてきました。

スペインを再訪問したときには、日本の動物検疫制度が改定され、非常に厳しい制度の壁に阻まれて誰も日本へスパニッシュマスチフを輸出してくれませんでした。
イタリアでは、ブリーダーとの話が9割進んだところから話がなくなってしまいました。

そんな中、UKの「クラフト展」へ2度目の訪問をする最中の、飛行機の乗り換え時にアムステルダムで出会ったチェコのブリーダーから「ポルソス」を輸入することができました。

ただし、このときには弊舎でポルソスが唯一のスパニッシュマスチフとなっており、早急にお嫁さん探しをしなければならない状態でした。
同じブリーダーから輸入することもできましたが、同じブリーダーでたくさんの血統を保有しているブリーダーはいませんし、また私たちが好むスパニッシュマスチフで、尚且つ私たちのポリシーに合致するブリーダーを探すことは非常に困難でした。

動物検疫制度が大きな弊害のひとつでもあったので、経由地を経てスペインとイタリアのブリーダーからスパニッシュマスチフを輸入することにしました。
もちろん、その中継地点でもスパニッシュマスチフのブリーダー経験のある人物を選びました。

やっと2012年にアメリカ経由でスペインから「ユマ」をイタリアから「アヴィー」を輸入することができました。
生後3ヶ月までを出生地のスペインとイタリアでそれぞれ過ごし、その後2頭はアメリカで生後11ヶ月頃まで過ごし、そして日本へやって来ました。

ようやく2013年の元旦に、実に8年ぶりとなるスパニッシュマスチフのお産にこぎつけました。
それはポルソスとユマの間に誕生した子犬です。
この出産のときには1度に17頭もの赤ちゃんが生まれました。
(育った子数は13頭です)

2013年現在のMasaki Collection在舎のスパニッシュマスチフはオスの「ポルソス」とメスの「ユマ」とメスの「アヴィー」の合計3頭です。

日本での状況

過去に弊舎からお引渡ししたオーナー様がスパニッシュマスチフを出産させたことはありましたが、昔も今も専門的なスキルを持ってブリーディングし続けているブリーダーはMasaki Collectionが国内で唯一です。

毎年、発表されるJKC(血統書を登録・管理する団体)の犬種別犬籍登録頭数(1年間にJKCで血統書を登録された犬の頭数)の一部をご紹介します。あくまでも日本国内だけの登録頭数です。

1番多かった犬種はプードルの93,000頭です。
10位がミニチュアシュナウザーの7,700頭です。
20位がビーグルの3,000頭です。

中・大型犬では、11位のゴールデンレトリーバーが7,300頭で、一番多いです。
26位がバーニーズマウンテンドッグの1,700頭。
34位がグレートピレニーズの500頭。
40位がグレートデンの300頭。
45位がセントバーナードの239頭。
58位がニューファンドランドの116頭。
87位がアラスカンマラミュートの39頭。
スパニッシュマスチフの登録頭数は0頭です。

ちなみに2011年度の登録頭数は1頭で、この血統書登録は「ユマ」です。

このようにスパニッシュマスチフは非常に稀少な犬種です。
(JKCが公認している犬種は全190犬種です)

つまり、常に新たな血統のスパニッシュマスチフを海外から輸入し続けなければ、すぐに血縁ばかりになってしまい、ブリーディングできなくなる犬種といえます。

ただ、大型犬(超大型犬)を国産化すると小型化してしまう傾向があるため、スタンダードなサイズや体躯を維持するためにも海外で生まれ育ったスパニッシュマスチフを輸入し続けることが私たちのポリシーでもあります。